「性教育の中での家庭科の役割」


【目的】
 性教育と一言で言っても、その範囲はとても広い上に、人間の根本に関わるものである。しかし、実際に性教育というものを身近に感じられるような授業を行うことに難しさを感じている教員も多い。性教育を行うことは、教員自身の性教育に対する姿勢が問われてくるからである。そこで、そのような性教育を行うために、まず性教育とはどのような物かをとらえ直すことからはじめ、家庭科ではその中のどのような領域を行えばよいのかを探り、より効果的な役割を追究し、建設的な提言をすることを目的とし、研究を行った。


【方法】
 まず、性教育とはどのようなものなのかを捉えるために、戦前からの性教育の流れを見る。そして、現在の性教育論を見てそれを踏まえた上で、本論での性教育論を規定する。次に、東京学芸大学の学生を対象に質問紙によって性教育に関する実態調査を行った。以上2つの方法から得た結果をもとに考察をした。

【結果及び考察】
 @性教育の歴史:戦前の性教育は、女子に対する月経教育ぐらいしか行われていなかった戦後になってからは、女子に対する純潔教育が盛んに行われるようになり、それが性教育であった。この戦後の性教育であった純潔教育がその後もずっと引き継がれていたのである。それに対する批判は、もう何十年も続いているにもかかわらず、現在も同じような論争が続いている。それだけ、性教育はおざなりにされてきており、進歩がほとんど見られていないところが問題点として明らかになった。現在は、その純潔教育に対する批判から、新たな性教育論が騒がれるようになったのであるが、純潔教育に代わるだけの確立された性教育論はまだできていない。性教育ほど副読本の内容に差がでるものはない、等と言われるゆえんである。
 A調査結果:調査から得られた結果からは、性教育の経験は、中学校で学んだものが小学校、高校と比較して一番多かった。性教育を受けた授業の教科は、保健が主流であった。ここからも、性教育=保健というイメージが作られていることもよくわかる。ただ保健で行われた授業内容には偏りがあったので、保健だけで性教育を行うことには問題があることがわかった。性教育はとても幅広い領域であり、しかも深い内容である以上一つの教科だけで網羅できるものではないのである。家庭科で行われた内容は“家族”に関係のある内容のものが多かった。“保育”の領域で取り扱われていることが多いからである。性教育のイメージは、必要、重要、大切だと捉えている人が多かったが、その一方で、現在の性教育に対する疑問の声も多々あった。性教育は大事であるが、どのように行うか、どのように行えばよいのかが曖昧なままでは、意味がないと感じている人が多いことがわかった。

【まとめ】
 性教育というものを、既成概念から脱し、新たな性教育のイメージを頭に作り直すことから始めることが必要だと言うことがよくわかった。しかし、現在の小学校などでは、低学年から男女の体のつくりの差異から思いやりを養うことを伝えるような性教育を行っているところもでてきており、今の子ども達は新しい性教育と真正面から向かい合っていける環境も出来つつある。その中で家庭科の役割は、家族に関わる内容を伝えることが主要であるが、それだけでなく、自分たちの暮らしを築いていけるように、総合的な内容を行うことが、今後望まれる。